宇宙への挑戦

1969年7月20日、世界中の人々はテレビの中継画像にくぎ付けになっていました。

人類史上初めて、人が月面に降り立つ瞬間を見ようと。

月面の「静かの海」に星条旗を立てるアポロ11号のアームストロング船長の左腕には、月の過酷な環境の中でも静かに時を刻み続けるオメガ スピードマスターがありました。

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ヨーロッパの名門ブランドであるオメガが、アメリカの宇宙開発の象徴的存在となった背景にも、オメガらしい懐の深さ、職人魂が息づく技術の確かさ、誠実さがありました。

 

今でこそスピードマスターと月面着陸の関係はよく知られていますが、スピードマスター自体は元は一般向けの時計で、宇宙飛行を目的に開発されたわけではありません。

スピードマスターのファーストモデルの誕生は1957年です。

当時のオメガを代表する「27CHROC12」キャリバー321というクロノグラフ・ムーブメントを内蔵していました。

ご存知の通りクロノグラフとは、1日の時間を刻む機能に影響を与えず、単独のストップウォッチ機能も備えた時計のことです。

腕時計に優雅さが求められ、時計と言えば懐中時計だった時代に、スピードマスターは実用性と機能性、頑強なステンレスケースを持つ、小型で斬新なデザインのクロノグラフとして登場したのです。

 

1964年、アメリカ航空宇宙局(NASA)から重大な国家プロジェクトのための物品調達として、複数の腕時計メーカーにクロノグラフ購入の打診がありました。

NASAの厳しい要求に対して、自信をもってテストを受けると回答したのは、オメガをはじめとする3社のみだったと言います。

宇宙開発は、時計ブランドのプライドを賭けた戦いの場にもなっていきました。

 

NASAのテストは、気圧や温度、湿度変化、衝撃、加速度、振動など多岐にわたり、内容も非常に過酷でした。

例えば、低温環境のテストでは、マイナス18度±4度に下げた室温の中で48時間保たせたのち、標準室温に戻してから作動検査が行われました。

 

1965年、オメガに簡単な一通の手紙が届きました。

唯一、過酷なテストに耐え抜いたスピードマスターがNASAから正式に「飛行資格認定」を与えられたことを伝える手紙でした。

 

NASAの当時の記録では、宇宙計画が地道な実験を重ね、手探りで進められたようです。

当たり前ですね。誰も経験したことのない宇宙空間へ飛び出そうというのですから。

厳しいテストが繰り返されたのは、どんなことが起こるか想像もできない宇宙空間でトラブルが起きた時、何よりも頼りになるのが正確な時を刻む時計だったからです。

実際、映画の題材にもなった1970年のアポロ13号のトラブルでは、スピードマスターの正確さがあったからこそ、帰還に必要な、僅か14秒のエンジン噴射に成功し、乗組員の命が救われたのです。

 

当時の宇宙開発は稚拙と言っていいほどのアナログさでしたが、当時のNASAには乏しい技術を補って余りある熱意がありました。

アメリカという若い国の夢と希望を実現させるため、あらゆるものを活用し心身を限界まで酷使することを厭いませんでした。

日本の高度成長期と同じですね。

その熱意がオメガの高い技術と結びつき、スピードマスターを宇宙開発の象徴に導いたのです。


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